モヤモヤとした山下達郎のことば

2023年7月9日(日) 東京FMサンデーソングブックで、山下達郎とジャニーズの関係について自らスピーチをした。

全文は、下記のサイトに掲載されている。

https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/591646

中立を主張したのか、それともセカンドレイプに近い発言をしたのか、モヤモヤとした気持ちが残った。

後半部に当たる部分に、当該人物の名前を挙げて、功績を称えて「ご縁」と「ご恩」を理由に恩義を感じていると。

そして、しばらく称えた後に、「この様な私の姿勢をですね『忖度』あるいは『長いものに巻かれている』と、その様に解釈されるのであれば、それでもかまいません。きっとそういう方々には、私の音楽は不要でしょう。」とスピーチを締めています。

とても残念というか、当該人物についてのスピーチは一切しなかった方が誠実だったんじゃないかと感じた。

だから余計に、モヤモヤと残念さが残ったのだと思う。

当事者性をどのように感じるのかは、それぞれの感じ方・捉え方に依るので、一概に当事者性が感じられないと言い切れないが、それでもスピーチを聞いて感じたのは当事者性の無さだった。というよりも、その立ち位置を取ったのだと受け止めた。

どこに自分が立つのかを決めるのは自分でしかない。

私が立つのは、中立でもなく権力側でもない、小さくされた者の側である。

中立を装うことは、すでに抑圧者の立場に立っていることになってしまうことを肝に銘じておきたい。

オクスフォードリファレンスから、デズモンドツツ主教の言葉。

https://www.oxfordreference.com/display/10.1093/acref/9780191843730.001.0001/q-oro-ed5-00016497

If you are neutral in situations of injustice, you have chosen the side of the oppressor. If an elephant has its foot on the tail of a mouse and you say that you are neutral, the mouse will not appreciate your neutrality.

https://www.oxfordreference.com/display/10.1093/acref/9780191843730.001.0001/q-oro-ed5-00016497

『不公正な状況において中立であれば、あなたは抑圧者の側を選んだことになる。象がネズミの尻尾に足をかけているときに、あなたが中立であると言えば、ネズミはあなたの中立性を評価しないでしょう。』

マーチンルーサーキング牧師の言葉

The ultimate tragedy is not the oppression and cruelty by the bad people but the silence over that by the good people

『究極の悲劇は、悪人による抑圧や残酷さではなく、善人によるそれに対する沈黙である。」

もし、山下達郎の言葉をすべて信じるとしたら、私たちは芸能界もしくは音楽界という世界が、大きな組織として存在していて、すべてがつながっていて、影響を与え合っていると考えている「概念」が間違っているのかもしれない。

「音楽業界の片隅にいる私に」と発言する意図は、私たちが想像している「業界」という概念の違いを言い表しているのかもしれない。

たとえが適切かどうかわからないが、いちタクシー運転手が、大手自動車産業のトップの不祥事に対して、どのように応答するのかを考えれば、その意味がわかるかもしれない

そのいちタクシー運転手が、どんなに稼いでいてどんなに有名だったとしても、タクシー運転手でしかない。そういう感覚なのかもしれない。

そして、タクシー会社に出入りしている個人事業主が、いろいろと吹聴するような行動を取れば、会社としてもちょっとややこしい人物になるだろうから、適切に対応するというのは良くわかる。

とはいえ、番組内のスピーチにおいて当該人物のことを丁寧に喋るのは、セカンドレイプと言われても仕方がないだろうし、当該人物側の立ち位置を取ると宣言したと捉えられても仕方がないだろう。

だからといって、私たちが暗に期待しているような、「正義を振りかざして欲しい」という思いに応えるような山下達郎ではないことは、十二分に承知しているはずだったと思うわけで。

それらを混ぜこぜにして受け止めるには、山下達郎というひねくれ者を受け入れないことには、受け止めきれないのだと思う。

追記 2023.7.12
音楽ライター、おとましぐら氏のテキスト